医薬品のサプライチェーンにおけるセキュリティ課題と印字技術

業界スペシャリストの意見

Richard Nemesi(リチャード・ネメシー)
ビデオジェットの医薬品および医療機器のグローバルバーティカルマネージャー

正しい医薬品や装置を正確な場所・人・時間に届けられるようにすることは、医薬品業界とそのサプライチェーンの重要な責務の 1 つです。医薬品や医療機器の製造、包装、出荷がますます増える中、偽造医薬品やその他のセキュリティ違反がサプライチェーンに入り込む機会が増えています。機械によるエラーが発生する可能性については言うまでもありません。このような懸念は、医薬品のサプライチェーン全体を通したトレーサビリティを確保するために考えられたマーキング、シリアルナンバー印字、ラベリングの規制によって対処されています。このような規制に準拠するために重要なのは、マーキングおよびシリアルナンバー印字のソリューションプロバイダーと連携して、包装の種類に関わらずトレーサビリティを確保する、人も機械も判読可能な高品質のマーキングを作成することです。

サプライチェーンのセキュリティ上の課題

サプライチェーンのミスによる経済的損失やブランド価値の喪失を恐れない業界はありません。しかし、人の健康への潜在的影響を考えれば、医薬品業界が抱える重大性は、他の多くの業界よりも大きいことは間違いありません。医薬品の偽造やラベル貼付ミスが広く報じられたことで、メーカーや規制当局にかかる圧力が増し、より厳しい予防措置を取る必要に迫られています。医薬品業界の継続的な成長が課題の重大さをさらに高めます。IMS Health社は、今後 2 年の間に世界の医薬品市場は年間 3 パーセント成長し、売上は 2017 年までに 1 兆 1350 億ドル~1 兆 2350 億ドルまで上昇すると予測しています1。サプライチェーンのセキュリティを確保するためのシステムやベストプラクティスの開発はどんな状況でも難しいものですが、医薬品の需要が高まっている今は特に難しいと言えます。

各国政府は医薬品メーカーに対して、シリアルナンバー印字を一次包装、二次包装、外箱へ印字することでサプライチェーンのトラック & トレース機能を強化するように要求してきました。2015 年 1 月 1 日、米国食品医薬品局 (FDA) の 2013 年 医薬品サプライチェーン安全保障法 (DSCSA) の第 1 段階が発効しました。DSCSA では、サプライチェーンの各ステージですべての医薬品を追跡できる、国内で固有の製品シリアルナンバー印字システムの開発を義務付けています。今後 8 年にわたって、医薬品メーカー、医薬品の卸売業者、リパッケージ企業、薬局は、このようなシステムを開発、テスト、実装していく必要があります。2013 年に最終決定した FDA の機器固有識別子 (UDI) の仕様には、2018 年までに、機器クラスに基づいた医療機器の印字要件を段階的に導入することが含まれています。

法規制の準拠へのカギ

こうした新しい DSCSA および UDI 規制により、すべての医薬品メーカーは包装を大幅に変更する必要があります。各企業は、処方薬包装への固有のシリアルナンバー印字と医療機器への固有機器識別子の印字を行う機能を開発する必要があります。このような規制に準拠するには、製造プロセス全体への投資と、統合基幹業務システム (ERP) との連携が必要になります。新しい規制では、製品の印字およびラベリングで取り込む必要がある情報量も大幅に増大します。歴史的に、印字はロット番号、タイムスタンプ、消費期限、包装タイプに関する主要なデータを保持するために使用されてきました。印字は主に、リコールされ、薬局の陳列棚から回収しなければならない医薬品を特定するために使用される、危機管理ツールとして見なされてきたのです。

しかし、近年は印字およびマーキングの役割が拡大されてきて、サプライチェーンを通して生産のさまざまな段階で製品を識別するために使用されています。今日、FDA のシリアルナンバー印字の規制に準拠するには、これまで以上の情報を各製品のマーキング内に含める必要があります。その情報には、サプライチェーン全体で製品を効率的に追跡するための、国際取引商品番号 (GTIN) や固有のシリアルナンバーなどが含まれます。

従来のバーコードはこのような情報量を効率的に格納するようには設計されていません。FDA の自動認識およびデータ取得 (AIDC) 要件は、GS1 DataMatrix コードと呼ばれる 2 次元バーコード基準、または GS1 DataBar と二層型のバーコードにより満たすことができます。これらの高度なマーキング、シリアルナンバー印字、ラベリングには、より小さいスペースにより多くのデータを、可読性を損なわずに盛り込むことができる印字技術が必要です。医療機器および医薬品のメーカーは新しい規制に準拠する準備として、最新の印字システムを検討して必要な結果をもたらす能力があるかどうかを査定しています。

新たなシリアルナンバー印字要件に対応するための印字の選択肢

医薬品および医療機器業界の厳しいマルチ包装およびラベリングのニーズを満たすことができるさまざまな印字方法があります。人気の高い印字方法には次のものがあります :

  • サーマルインクジェットプリンタ – 高解像度のインクベースの非接触型印字システムで、厚紙製の箱など、主に平面への印字に使用されます。複数行のテキストを含む複雑なマーキングや、高速の生産ラインでも読み取り可能な 2 次元 DataMatrix コードなどを生成できます。
  • レーザーマーカー – レーザーマーカーの印字システムは、物理的な接触やインク補給部品が不要で、素材の表面に直接マーキングを印字できるため、プロセスを簡素化し、医薬品のマーキングの耐久性を改善します。
  • 産業用サーマルプリンタ – デジタル制御の精密プリントヘッドがインクリボンに塗布されたインクを柔軟なフィルムなどに転写して印字する熱転写方式で、リアルタイムで高解像度のマーキングを印字できます。この技術は、軟包装材のマーキングに最適です。産業用サーマルプリンタは、日付、ロット番号、タイムスタンプからバーコードなどのより複雑な印字まで、高品質の印字が可能です。
  • 産業用インクジェットプリンタ (小文字用) – 現在のさまざまな印字技術の中で最も汎用性の高い技術で、ほとんどすべての包装タイプや形状の製品に印字することができます。高速の印字速度とさまざまな用途固有のインクにより、この技術はほとんどどんな難しい用途にも最適に対応します。

適切な技術を選択することに加えて、医薬品メーカーは、最もコスト効率がよく、高速で高品質の印字およびラベルソリューションの選択と実装をサポートする、適切なアプリケーションパートナーと連携する必要があります。真のアプリケーションパートナーは、ソリューションの確実な導入から、プリンタのライフサイクルにわたった技術の提供まで、プロセスにおいて積極的な役割を果たします。そのようなパートナーを選ぶことができるかどうかは、結果に大きく影響します。クラス最高のソリューションを実装しサポートするために正しい手順を実行することは、患者の安全を守り、手直しを避け、リコールや制裁金の可能性を排除するために不可欠です。

世界的な法規制の状況の変化により、医薬品および医療機器業界には多くの課題が発生しています。このような問題に対処できる印字ソリューションを見つけることが、医薬品メーカーや医療機器メーカーの最優先事項となっています。新しい法規制に従うために費やす労力は、消費者の信頼とブランドロイヤルティが向上することによって、大きな収益を生み出す可能性があります。何より重要なことに、新たな対策により、正しい医薬品や医療機器を正確なタイミングで正しい人の手に確実に渡すことができるので、人々の健康に最大限のプラスの効果を与えることができます。

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